【千葉市・相続手続き・Mさん】身元保証人としての地位も相続の対象となるか?
千葉市にお住まいのMさんより、相続手続きに関するご相談です。
Mさんのご主人は、義理の姉から頼まれ5年ほど前に義理の姉の娘A子さんが就職する際に身元保証人となったそうです。その後、Mさんのご主人は病気で亡くなってしまったそうです。ご主人の死後に前後して、義理の姉の娘A子さんが、勤務先で事件(金銭的な横領)をおこして、行方をくらませてしまう事件を起こしました。その勤務先の会社よりMさんに次のような事を求めてきたそうです。
「Mさんは、ご主人が亡くなって身元保証の地位を相続したのでから、A子が会社に与えてた損害を賠償してほしい」
この、義理の姉の娘A子が勤めていた勤務先からの言い分(損害賠償)は正しいのでしょうかというご相談です。
「身元保証債務」とは
身元保証契約とは、身元保証人が使用者に対して、身元本人(被用者)が使用者に損害を与えた場合に、その損害を賠償することを約束しておく契約のことをいいます。
この場合、身元保証人が負担することになる債務の内容は、具体的には身元保証人と使用者の間の取決めによって決まりますが、大きく分けると以下のように大別できます。
①身元保証人が故意または過失によって使用者に損害を与えたときに限り身元保証人が債務を負う
②不可抗力を含めて身元本人が使用者に損害を与えた全てのケースで身元保証人が債務を負担する
一般的には、①の内容で約定することが多いようです。
「身元保証人の責任の軽減」
もっとも、①②のいずれの場合にせよ身元保証契約を結んだ時点では、一般の保証契約とは異なり、保証人としては将来いったいいくらの額の債務を負担させられるかわかりませんし、また、一度具体的に保証債務の支払いをしたとしても、身元保証契約が存続する限り、身元保証人が使用者に損害を与えれば何度でも負担する事になります。さらに、身元保証契約では、保証期間を「身元本人が在職する限り」と定めることが多く、身元保証人としてはいつまで債務を負担させられる恐れがあるのかわかりません。しかも、身元保証人の多くの場合、単なる好意により無償で、このような重大な責任を引き受けてしまっています。このように身元保証契約で決められたとおりの債務を身元保証人に負担させると、身元保証人を極めて不安定な地位におき、場合によっては大変に酷な結果となることがあります。そこで、「身元保証に関する法律」が制定され、身元保証債務の内容を制限し(下図参照)、身元保証人が過大な債務を負担することのないよう配慮されています。
「基本的身元保証債務の相続性」
身元保証契約自体が、身元保証人と身元本人の間の格別の信頼関係に基礎をおくものと考えられることや、責任の広範性から、身元保証契約に基づく身元保証債務は身元保証人に一身専属的なものと考えられます。相続人と身元本人の間には同様の信頼関係があるとは限りませんので、相続の対象とはなりません。したがって、今回のご相談の場合にも、Mさんのご主人の姪御(A子)さんに対する身元保証契約に基づく抽象的な身元保証契約はMさんのご主人の死亡で消滅していますので、Mさんはこれを承継することはないものと考えられます。
「個別身元保証債務の相続性」
ただし、身元保証人が生きている間に身元本人が使用者に損害を与えてしまい、身元保証人がすでに具体的に発生した損害賠償責務を負担していた場合には、これは具体的な金銭債務ですから当然相続の対象となりますので、注意が必要です。
つまり、今回のご相談の場合も、姪御(A子)さんの金銭的横領がMさんのご主人の亡くなった後の話ですと、元となる身元保証債務は消滅してしまっているので、Mさんは、その会社に対して何ら損害賠償をする必要はありませんが、姪御(A子)さんの金銭的横領がMさんのご主人が亡くなる前であれば、ご主人は身元保証契約に基づく具体的な損害賠償債務を負担しており、Mさんはこれを相続しますので、基本的には会社に対して支払いの義務を負う事になります。
もっとも、先に述べた「身元保証に関する法律」との関連で、実際の支払額は姪御(A子)さんの金銭横領額より減額されることも考えられます。また、その額が巨額でとても払いきれないような場合において、会社が姪御(A子)さんの横領の事実をMさんに通知するのをわざと遅らせていたという事情があるのでしたら、ご主人が亡くなってからすでに3ヵ月以上経過していますが、場合によっては相続放棄や限定承認の申述が認められる可能性もあり、債務を免除される場合もあり得ます。